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個人の基本的人権という概念の重要性については、言葉が知られている割には、その中身を理解されているとは思えない日本の状況が続いています。一言で言えば、「基本的人権とは何か」ということなんですが、多くの人がそれを「1人の人格を持った人間として人並みに扱ってもらえる。尊重してもらえる」ということだと思っています。しかし、これは文字通りの意味の基本的人権の意味とは異なります。社会福祉的な意味での人権、あるいは社会主義的な社会の中での人権というのについては別の意味が当然ありうるでしょうが、今私が問題にしようとしているのは、最もその基本となる「民主主義社会における人権」ということについてです。それは一言で言えば、その人に「こうこうこうすべきである」ということを強制するということ。これは宗教とか倫理とか、そういうものに依存して決まるものでありますけれども、しかしながら、そういうものによらないとするならば、言ってみれば、それぞれの好き勝手でしょう。言い換えれば、それを一人一人の人に画一的に強制することはできないでしょうということです。
日本では基本的人権というときに、画一的に強制してはならないというところの部分が希薄になってしまい、一応に平等にサービスを提供するということ。これが人権を重視することだというふうに考えられています。そうではないかと私は推測するんですね。実は私の今入院している病院で、この病院では素晴らしいことに、入院患者がお風呂に入ることができます。もちろんそのお風呂のキャパシティの問題がありますから、人数の制限があるでしょうけれども、その制限の範囲内であれば、本当にお風呂に浸かることさえできる。私は点滴をつけているしがない老人ですが、そういう老人に対しても点滴を一時的に水が濡れないようにして、湯船に入ってお風呂を楽しむことができる。素晴らしいサービスだと思いますね。そしてこれはおそらく医療保険としては一点にもならない。つまり病院は支出だけあって、収入には一銭にもならないというサービスだと思いますが、このようなすごいサービスがあるのに、情けないことにそれがお金にならないサービスであるために、当然のことですけど、そこでシャンプーとか石鹸とかそういういわゆるアメニティ用品というのを自分自身で用意していかなければいけない。それは患者にも好みがありますから、それはそれでいいとして、湯船からあるいは浴室から外に出るときに、当然濡れた体ですから滑るわけですね。その脚の滑りを防止するために普通はバスマットっていうのを使いますが、大人数が使う関係でバスマットを毎回取り替えることは不可能でありますし、またコストもかかりますから、それで儲かるならばみんなやるでしょうが、儲からない仕事はあまりやりたくありません。
しかし、バスマットがないわけにはいかないということで、私の病院では1枚の紙のシート、紙のシートといっても本当にタオル1枚分くらいのもんで、小さなものでありますけれども、それが置いてあるだけなんですね。私のように目が悪くなると、それが紙でできたバスマットの代わりであるということに気がつかない。そういう老人がいると、バスマットからちょっと足を踏み出して、危うく滑って転ぶところでありました。そういうことを考えると、明らかにそれは有料にした方がいい。お風呂に入りたい人はお風呂１回1000円で、バスマットが欲しい人は1枚100円であると、あるいは200円でもいいです。そういうふうにして、個人の負担を求めるというふうにすればいいのに、負担を求めないために、結果として1枚1円のような本当にティッシュペーパーに毛が生えたようなそういうバスマットの紙で、結果として、役に立っているというよりは一応バスマットは用意していますという形ばかりのサービスになってしまう。
せっかくものすごいサービス、お湯をふんだんに使い、場所を提供し、そして点滴を保護してくれる。そういうサポートを看護師さんがやってくれながら、肝心なところで一様にサービスを提供するという理念が先行して、結果として非常に安いバスマットになってしまっている。これは残念なことだと私は思うのですが、皆さんはどうお考えになりますか。その料金を負担できない貧しい人がいるからという理屈はよく理解できますが、一方、そういうふうに言ってもらえばお金を払ったのに、そのお金を払っていいバスマットに乗る機会を得ず、そのために転倒してしまった人がいるとすれば、何が本当にやるべきことだったか、何をしてはならなかったのか、おのずと明らかだと思うんです。私達は、安っぽい平等、水平、公平、そのために本当に大切なサービスの心、それを失っては話にならないと私は思うのですけれど、私が入院している病院は素晴らしい病院で、スタッフがすごく頑張っているのがよくわかるだけに、そのような部分でみみっちくケチりながら、しかもそれでお金を取らないということに、私は矛盾を感じております。
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