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⏰水曜日 2025.08.20 11:00 · 9mins
微分法differential calculusというのは、一言で言えば、与えられた曲線上の与えられた点における接線の方程式を求めること、あるいは数学的には接線の傾きを求めることであると言っていいと思います。接線というのはTangent Lineと言いますが、接線の代わりに接線と垂直な法線normal lineの傾きを求めると考えても、話は通じます。
しかし、17世紀には、接線を求めること以上に、法線を求めることの方が実用的に重要であった。というのも、ガラスの屈折の研究などで、理想的なガラスの曲面を設計するためには、スネルの法則を使うために、法線を知ることがとても大切であるからですね。しかしながら、そのことを除けば、法線を考えるよりも接線を考えることの方がよほど実践的に重要であるので、私達は今後、法線のことは忘れ、接線について話をして参りましょう。
接線というのは何でしょうか。しばしば学校数学的には「曲線と一点しか共有しない直線のことである」というような定義が書かれていますが、これは甚だしく不都合であり、むしろ間違っていると言うべきです。「与えられた曲線に対して、与えられた点において一点で接する」ということは、他の点で共有点を持たないということを意味していない。一点で接するということは、この一点において、曲線の振る舞い方と接線の振る舞い方が全く区別がつかない。曲線が接線のように振る舞う。そういう一点の、ごく近くにおいて、数学ではよく近傍と言いますが、その近傍における曲線の振る舞いが直線で近似できる、という「近似する」直線のことを接線と言うわけです。
もちろん、曲線によっては与えられた点において、その曲線の振る舞いを接線で近似できないということがあり得ます。そういう場合には、接線は持たない。難しい言葉で言うと、微分不可能であるというふうに言うわけですが、そういうものも存在するわけですね。しかし、初学者のうちは、「曲線に対して必ず与えられた点において接線が引ける」と信じていて、あまり間違いはないでしょう。普通の常識的な曲線においては、必ず接線が引けるからです。
その接線を引くためにどういう方法があるか。といったときに、私達は従来、「2点で交わるという直線の極限的な場合として、接線を考えることができる」ということを、多項式の因数定理のようなものを媒介として、論じてきたわけでありますが、今後はもう少し近代的にというか、17世紀的にいわばダイナミックな発想に基づいて、曲線上に与えられた点と、与えられた点近くにもう一つの点が与えられた。その2点を通る直線というのが与えられた点に対して、与えられた点の近くに与えられる点が限りなく近づいていったときの極限の値、極限、リミット、そういうものとして、接線を捉えようとする。
この思想は、17世紀に生まれ、18世紀に花開いたものでありますが、これを厳密に定式化することは19世紀に至るまでできなかったわけです。ですから、学校数学においても本当は厳密に言えばできないと言わなければいけないのですが、ここは17世紀の精神をおおらかに享受することにして進めましょう。
もう一度繰り返します。大事なポイントは与えられた曲線において、あるいは与えられた関数のグラフにおいて、そのグラフ上の与えられた一点、例えばA、x座標をaとすると、y座標は関数y=f(x)の上にあるとすれば、f(a)と表されることになりますね。その点A、f(a)における接線とは、Aの近傍に点Pっていうのを取ってやる。点PはAと一致するわけではありません。Aと異なる点です。AとPと異なる2点を通る直線は一つに決まるはずですが、その直線において、Pが限りなくAに近づいたとき、限りなく近づくって言ったときに本当に近づいて一致してしまったら、点PとAが一致するわけですから、2点を結ぶ直線を考えることができなくなります。しかしながら、そうではなくて、AとPはあくまでも異なるんだけれども、その異なる2点を通る直線が、点Pが点Aに限りなく近づいていったときに、ある直線に限りなく近づくということがあるならば、正確に言うと、二つの点を通る直線の傾きがある一定の値に限りなく近づくということがあるならば、このときに、曲線は点Aにおいて接線を持つ。あるいは微分可能である。というそういうふうに言うわけであります。
すなわち、「接線の定義というのは、接線の傾きが存在する」という性質で持って定義されるということです。これが、接線を定義する17世紀的な素朴なやり方を、少し19世紀的にアレンジして、より明白にしたものと言えましょう。


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