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年をとってくるといろいろ若い頃の懐かしい思い出が思い出され、それを若い人たちに伝えることも無意味ではないかなと思い、今日はちょっと昔話をさせてください。
私が子供の頃、冬で寒い布団に入るときには、よく湯たんぽを作ってくれました。湯たんぽを作るというよりは、正確には湯たんぽという容器にお湯をたっぷり入れてくれたということです。その湯たんぽを小さな布団でくるんで、自分の寝る布団の中に入れておくと、湯ゆたんぽから発せられるほホカホカとした熱が足元を温めて、非常に快適に朝まで眠れた、という懐かしい思い出があります。朝になると、その湯たんぽの冷めたお湯で顔を洗う。これも大変気持ちの良いものでした。
水道栓を捻ると、それだけで適当な温度のお湯が出てくる生活の便利さとは正反対の、不便の中での楽しい思い出です。今は残念ながら、湯たんぽを知っている人は少ないでしょうね。湯たんぽっていうのは、水の特性、すなわち水を熱したときにそれが冷めるまでに発熱する熱量、いわゆる比熱の大きい材質で、水というのは、密度の点では、決して最も高密度っていうわけではないんですけど、比熱ではとっても大きいものなんですね。ですから、水を温めると冷めづらいということがあります。そんなことはないとおっしゃる人はいるでしょう。昔はお湯に入るために、石を熱くして、それを冷たい水に入れてお湯を沸かしたものだ、とこういうような物語を知っている人がいるかもしれませんが、石が大きな熱量を持っているのは、石が重いからであって、石の比熱が大きいからではないんですね。同じ重さの石で比べれば、水を温める方がきっと石を温めるより、より熱が大きいんだと思います。その比熱の大きい水の特性を利用したものが、湯たんぽという古典的な人間の寒い冬をしのぶための必須の道具であったわけですが、非常に巧みな工夫であったと思います。
ところで、私の思い出はそこでは尽きないのです。実は私はこの湯たんぽに関して、大変な失敗をした思い出があります。それは、水のもう一つの特性、すなわち、水は氷・固体から、液体・水になって、そしてやがて、沸点を超えると気体・水蒸気になるっていうわけですが、水蒸気になるときにものすごく体積が膨張する。
この水の体積膨張の原理を利用して、スティームエンジン・水蒸気機関というのが、発明され、これが一種の文明上の大変革といってもいいかもしれませんが、産業革命を導いたわけです。私はそれを第1次産業革命といい、その後に続く内燃機関の発明、それから電力機器の発明、そしてやがて20世紀の中頃にやってくる電子機器の発明で、そういった多くの産業革命と並列するのはまずいけれども、その第1に来るものとして位置づけることが非常に重要であると思っていて、しかし、世界史ではどうやら第1産業革命のことしか産業革命と言ってないみたいなので、これはまずいなと思っている次第ですが、話は脱線しました。
その水の持っているすごい力、水蒸気が持つところの力、それは言ってみれば熱エネルギーを利用して、液体である水を気体である水蒸気に変換したときにできる体積膨張と言ってもいいわけですね。その力を利用したものでありますけれども、水を熱して水蒸気になって体積が膨張する。これは小学生でも知っていることでしたので、私は子供の頃大失敗をしました。小学校5年生か6年生、多分6年生になっていたんじゃないかと思うんです。そんなときになっても本当に馬鹿な少年であったということをここに告白するのですが、私が当時使っていた湯たんぽは、金属製でありました。おそらく薄い鉄板でできていたんだと思うんですね。もちろん鉄が錆びないように適当に亜鉛か何かを上に表皮に塗ってあるものだと思います。いわゆるトタンのようなものですね。そのようなものであったのではないかとぼんやりと記憶するのですが、その湯たんぽを私が乱暴に扱って、多分踏んでしまったんですね。そして変形させてしまった。つまりへこませてしまったわけです。へこませてしまうと湯たんぽは体積が小さくなるわけで、親からは、「なんてことをしたの。これじゃ湯たんぽとしての使い道が減るじゃないか」と、そう注意されたのだと思いますが、それに反発して、「いや湯たんぽは元に戻すことができる」と言いはったんですね。そしてそれで何をやったかというと、湯たんぽの中に水を少し入れて、そして湯たんぽの栓をしっかりと締めて、その上でガスにかけたわけです。そこまではいいのですが、中で沸騰しているらしき音が聞こえ、しかし水蒸気は全然漏れてこない。そういう状況を観測しているうちに、私は不安になり、これはひょっとして中で膨張が起き、大爆発が起こるのではないかと、心配になってしまったんですね。まさにその大膨張によって、へこみを直すというのが私の企てだったはずなのですが、その私の企てのアイディアの貧しさのために、そのアイディアを途中ちょっとひるんでしまい、なんと愚かなことにその湯たんぽの栓をゆるゆると少し緩めてしまったんです。そうすると、ものすごい勢いでシューっという水蒸気が出る。水蒸気が出て、少しガスを逃すということ、圧力を低めるということは湯たんぽを保護するためには良かったのでしょうが、湯たんぽの形状をもとに戻すためには役に立たないことでありますね。しかし私はそのシューっと出てくるのは何か楽しくて、つい更に回してしまったわけです。そうしたとたんに、湯ゆたんぽの栓が外れて、まさに湯たんぽの栓を通して、爆発ではないんですけど爆発的に中から水蒸気が噴き出してきた。私の手はその湯たんぽの栓の近くにありましたから、そこで私は大火傷覆ってしまったというわけです。
その大やけどの跡は、70を過ぎた今日では少しうっすらとしてきましたけれども、つい最近まではっきりと残っておりました。私が子供の頃、理科の実験のような気分で、気楽に水蒸気に向かってしまったという大失敗のお話でした。
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