*** コメント入力欄が文章の最後にあります。ぜひご感想を! ***
私は今、一種の療養生活とやらを送っているのですが、つい退屈するのでオンデマンドで好きな番組を見るということに、無駄時間を使っています。中には非常にためになるものがあり、そういうものを見ると興奮してしまい、療養にならないので、しばしば本当にくだらない番組を見て時間を過ごすことが少なくありません。そういう中で、日本的だなというふうに感じた番組あったので、それを紹介したいと思います。
それは「泣くな研修医」というテレビドラマでありまして、研修医っていうのは、いうまでもなく、医師国家試験という試験を一応受かって、医師としての言ってみれば、最初の入門編をクリアしているんですが、現在の日本の制度だと、医師国家試験というのは試験に通ってないと話にならないが、その試験に通ってもそれから研修期間を経て、専門医になるということが求められているわけですね。このような専門医の制度が正しいかどうかについては多くの論争があることなんで、私はここでは避けたいと思いますが、ともかく研修医は研修期間というのを過ぎて、前期研修・後期研修という形で、かなりの期間を研修医として過ごすわけです。研修医というのは、言ってみれば、何もできない医者でありますから、形の上では看護師さんの上に立っているようで見えて、実は看護師さんがやっていること、特に優秀な看護師さんのもとでは何も歯が立たない、全く使い物にならない。だから病院にいれば士農工商というような身分制度の中にあるとすれば、研修医というのは看護師さんの下に位置する。そういう辛い立場であるわけですね。
そういう中にあって、つい泣いてしまうという話があるんですが、この泣いてしまうというのは、研修医としていじめられて泣くということでは必ずしもありません。研修医が、患者と対峙して、患者が必死に生きる姿を見て、そこでついつい医学の限界あるいは自分自身の医療者としての限界、それを思って涙するという話。これが中心であるわけですが、そこに出てくる研修医は、1人の主人公に相当する研修医を除くと残り3人は馬鹿を代表するような人物で、1人を際立たせるためにその3人の馬鹿さ加減を強調するという脚本家の設定なんだと思いますが、あまりにも馬鹿馬鹿しさに呆れてしまう。研修医といっても、実はそれなりに真面目にやっている人もいて、そして働き方改革という言葉があるけれども、それどころではない。自分自身を一人前の医者とするために、馬鹿馬鹿しい規制をかいくぐって努力している。そういう研修医がたくさんいることを私は知っておりますが、一方で、本当にろくでもない研修医がいるのも事実でありまして、その研修期間を過ぎさえすれば、ふんぞり返って専門医になる。専門医って言っても、実は非常に怪しい世界でありまして、専門医としての認定を取るための試験を受ける。そして研修を受ける。そういうことをすることによって、専門医とか学会認定医とか、そういう資格を看板に乗せる。そして宣伝することができるということになっておりますが、その実態を皆さんがご存知であれば、本当に空恐ろしい世界であります。立派な専門医がいることも事実でありますが、もう立派とは縁もゆかりもない「なんちゃって専門医」もたくさんいるわけですね。そういうところに切り込んで、きちっとした番組を作れば面白いと思うのに、実は残念ながら日本の医療番組っていうのは、かつての「ドクターX」というのはそれなりに面白かったんですが、それもいわばカリカチュア(caricature)としての大学病院制度っていうのをおちょくっている感じなので、本当にドロドロとした沼のような、底なし沼のような恐ろしい世界を描き切っているとは私は思いませんでした。
私が今紹介している楽な専門医っていうのは、そういうほどの大ドロドロとした部分もなく、本当に軽いタッチで描かれている。本当に今風の、市大を低成績で卒業しやっと国家試験を受かったという程度の専門医。これを目指して生きている研修医だと思いますが、その人たちの言ってみれば、本当にカリカチュアライズされた漫画のような演劇、これが日本全体だと思われると、私はずいぶん大きな間違いをすることになると思いますけれども、日本のテレビに関係している人たちが、専門医に対する敬意を全く持っていないということを勉強する意味でも、役に立つ番組だなっていうふうに思いました。専門医になるために、研修医たちがどれほど非人間的な理不尽さに喘いでいるか、それにメスを入れる番組が本当はできなければいけないし、それは単なる空想的なテレビ番組ではなく本当にドキュメンタリーとして、きちっと作る必要があるのですが、我が国ではそのような社会の抱える本当の病理に迫る番組っていうのはほとんど作られることがありません。
何か非常に浮ついた表面的な事柄、例えば「教育問題についてのドキュメンタリーなんちゃって」がたくさんありますけれども、私から見れば、学校の先生の抱えている問題点あるいは子供たちの抱えている闇の世界、そういう問題に迫っているものは、私が見る限りほとんどないという状況だと思います。私は、プロのスポーツ番組の間に、ドキュメンタリーが挿入されるということ自身が、非常に違和感を持つのでありますけれども、例えばEテレという教育をテーマとする番組あるならば、その番組の中で本当に国民を徹底して教育するというような、思想の高い番組が作られるべきだと思うのですが、「今は国民は全て馬鹿だから、大衆に受けてナンボである。大衆は愚かであるから、愚かな大衆に合わせた番組を作るのは、公共放送の使命である」と、そういうふうに考えているディレクターがいるのかもしれません。
テレビのくだらなさと比べると、ラジオ番組の方はなかなか優れていて、ラジオ番組はそれなりに聞かせてもらいます。テレビで言えばBS4Kに移ってしまいましたけど、クラシック倶楽部という朝やっている番組はとても楽しい番組で、普通には売れない芸術家、それでいて自分の道をまっしぐらに進んでいる芸術家にフォーカスを当てて番組を作ってくれている。そして、その番組を見ると本当に心が揺さぶられる。「なんちゃって名演奏」というものが世にあふれている中にあって、本当に芸術の道で努力している人たちにフォーカス当てている。そういう番組が存在するということは事実です。だったならば、もっともっと教育の問題、社会の問題について、多くの人が関心を持つべきこと。それを取り上げるべきではないかと思うんです。
選挙の有権者が選挙に行く。実際に有権者のうち選挙の投票率が信じがたいほど低いという日本の状況、それを変えるには何をしなければいけないか。私自身は、まずテレビの報道が変わらなければいけないと思うんですね。政治を一部のゴロツキのような利益団体の人たちの好きにさせておいてはいけない。そういう意識を国民1人1人が持つことがとても大切だと思うんですけど、そのためにはまずお茶の間番組というのからメスを入れなければいけない、と私は痛感しております。そういう意味で、お茶の間番組の最もくだらないレベルの「泣くな研修医」という番組を取り上げましたけど、この番組でさえ、公共放送のお茶の間番組・バラエティー番組に比べればだいぶ質が高い、と私は思います。皆さんもぜひご覧になってください。AmazonのPrime Videoですと、今は無料で視聴できるはずです。
コメント