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どうやらよもやま話を見ている方々の中には、数学教育の現状に対して強い不満を持ってらっしゃる方も多いようなので、数学教育に関して言えば、たまたま階差数列を取って規則を発見するというところだけにインチキがあるわけではなく、実はいたるところにインチキがある。より正確に言えば、ほとんど全てがインチキだと言ってもいいくらいだというお話をするために、そのための準備的な話題を提供したいと思います。
それは、そもそも数列を教えるときに、必ず日本では、{}、Braceで表しますね。{An}こういう書き方をする。この書き方そのものが一種の文法違反であって、Brace{}の記号というのは集合に対して予約されているわけでありますね。皆さん、誰もが集合のときにはBraceで括る。こういうことを知っている。しかるに、数列というのは数の集合かというと、全くそうではなくて、集合という言葉をあえて使うとすれば、順序集合、非常に単純な順序集合、つまりA1,A2,A3,A4,A5……、こう並んでいくような最も単純な順序集合であるわけです。ですからBraceを使って書くというところからそもそも文法違反なんですね。もし国語であれば、これは誤字脱字というより、似ている漢字を誤用するという類の最も無教養な間違いでありましょう。そのことについても気づいている人は多くいらっしゃるはずですが、あえてそこは気にしないという態度で過ごしています。
括弧記号というのは数学において非常に重要な意味を持っており、とりわけ集合というのは、順序を持たない「ただの要素の集まり」であるはずでありますから、順序集合のような書き方そのものが無意味、ルール違反と言わなければなりません。しかるに高等学校レベルでは、正の整数あるいは自然数というものでさえきちっと定義することはできない。ですから、順序集合として書くより仕方がないんですね。つまり自然数全体っていうのは、1,2,3,……とこういう具合です。1,2,3,だけで済ますのはあんまりだと思う人は1,2,3,4,5,6,7,8,9,……と多少具体的に書く数が増えるかもしれませんけれども、…が続くところを完全に避けることはできない。私自身はそれを避けるために、1,2,3,,,,, n , n+1 ,,,,と、そういうふうにして、1を付け加えるという操作が限りなく続くということを、表現の上でもできるだけ正確に表したいと思います。数学的な厳密性を数式の単純な表現で済ますことができるはずはないわけでありまして、自然数に関する高等学校以下の定義は全部インチキと言ってもいいです。そもそも、この例に出てくるように、学校数学の中にある「… 」、3点でもって一つの文字として扱う。そういう「.」を連続して並べた記号、これは非常に怪しいわけで、「…」が何を表しているかということが、論理的にはきちっとどこにも定義されていない。それでいて、それを正しく理解するということが要求されているわけですから、これは全く馬鹿げた話ですね、数学的には。そしてこれを理解しなければいけないということを強制するんだとすれば、数学教育は、言ってみれば教育ではなくて“教練”ですね。軍事教練のようなものだと言ってもいいと思います。
よく学校の成績が良い人が社会に出て活躍するわけではないという話、これは山ほどありますけれども、もう三四半世紀前の敗戦以降の日本において、そもそも学歴社会というのは崩壊しているわけでありまして、今、日本が学歴社会であると思っているのは、よほどおめでたい人かよほど商売熱心な人だけであると私は思います。そういう中にあって、学校教育が崩壊していくということにはある種の背景的な必然がある、というふうに言わざるを得ません。数列のところだけをもっても、まだ語っても語っても語りきれないくらいの嘘があります。しかし、そこに嘘があるということに、生徒はおろか教師も気づいていない。保護者も気づいていない。そして、そのような嘘を自分でマスターしていくということに対して、それが自分の人生の成功に繋がるんだと、素朴に信じている。この意味での素朴さというのは、英語でnaiveと言いますけれども、それは「幼稚である、愚かである」という意味であって、日本人が一部誤解してるような、「微妙な繊細さを持っている」という意味では決してありません。元々の英語にもそんな意味はないんです。本来は元々フランス語と言わなければなりませんが、日本人が勝手に誤解している英語の一つでありますね。
ともかく、数学教育というのは最も論理的な勉強であると信じ込まれていますけれども、その数学が論理的でも何でもないという暗黙の前提に支配されている世界であるということ。そのことに生徒は気づいていなくても、せめて先生方は気づいてほしいと私は願っています。私が頑張っておりますNPO法人では、先生方がもう一度教壇に立ったときに、大学で勉強できなかった数学の知識を、高等学校あるいは中学校の現場に合わせて、真剣に勉強できるような体験の場、そして数学的な感動の場を提供していきたいと思っているのですが、残念なことに、私の観測では99.9%の現場の先生方は、そのような意欲すらもはや失っている状況であるという現状認識が私にはございます。私の現状認識が悲観的すぎるというお叱りを受けることを私は心から望んでおります。
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