長岡亮介のよもやま話210「保守vs革新」

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 今回は、私が若い頃大嫌いであった “保守派”という言葉について、考察してみたいと思います。日本における「保守主義」あるいは「保守派」の政治勢力、その人たちに対して、子供の頃から一種の強い生理的な嫌悪感を感じていたのは、その政治家たちが、私が赤ん坊として生まれる直前に終わった太平洋戦争に対して、きちっとした責任を負ってないかのように振る舞う行動様式を見ていたからであり、またそういう人たちの周辺に、今だったら反社会勢力と呼ばれるような人々の姿がちらついていたからであります。そういうことから、「保守」という言葉の意味を理解する前に、その言葉を知り、嫌なものを感じていたのですけれども、漢字自身を考えるならば、保つ・守るということであって、「保守」の反対である「革新」が、新しいものを目指して現状を変革するという響きを持つのに対し、確かに「保守」という言葉の持っている響きは若者の心にあまり響かなかったというのも事実だと思います。やはり、若い頃は、何とか日本の現状を少しでも良い方向に打開していく方向で努力したいと思っておりました。年をとってきてつくづく思うのは、革新という言葉を言う人たちが必ずしも本当に革新的ではなく、保守と言われる人々が必ずしも従来の利権にこだわって既存の既得権を守ろうとする人々では必ずしもないということがわかってきて、さらに、特にアメリカ合衆国における革新と保守という区分けでいくと、革新に属する民主党、保守に属するであろう共和党は、必ずしも日本の保守革新と対応しているわけではないということを知り、少しその言葉について考え直す必要があると感じたことがあります。

 アメリカでは共和党も保守党も、日本における保守・革新のような対立ではなくて、ともに共産主義が嫌いで、ともにアメリカ合衆国の建国の理念を守るということのためには、一致して団結して行動する。そういうことをいろいろ見聞し、また共和党の政治家の中に立派なことを語る人もいて、日本の保守政党とは違う保守の意味を考えなければならない。そういう現実を知ったっていうこともあります。やはり、保守っていうのは英語では多分Conservativeというんだと思うんですね。Conserveって守るっていうことです。Conservativeっていうのは保守的っていうことですね。ConservatistあるいはConservatism、こういうのが保守主義とか保守勢力というふうに言われるものなんだと思いますけども。Conserveっていうのは、日本人になじみやすい英語Reserveというのと同じで、保存する、保管するっていうことに近い意味を持っているわけですね。要するに、伝統的な価値観を守り抜こうとして意図的に、あるいは意識的に努力する。これが保守であり、その伝統的な価値観にこだわらず、新しい価値観に挑戦しようっていうのが革新だ。そういうふうに理解するとすれば、保守と革新についての新しいものの見方ができるな、と私は思いました。

 そして、我が国における保守勢力が必ずしも保守的でなく、革新勢力が必ずしも革新的でないということの理由も、結局保守政党が守ろうとしているものが何であり、革新政党が革新しなければいけないと思っているものは何であるか。そういう未来図というか、理想図というか、それが明確でないっていうことが、我が国の政治勢力の弱点であるというふうに思いました。日本の戦後の政治を見てみると、これは世界で唯一の共産主義国家ではないかと思うくらい、日本は社会福祉とか社会保障の制度が充実しておりまして、その充実ぶりは旧来東側諸国あるいは社会主義諸国と呼ばれていた、ソ連、中国あるいは北朝鮮、キューバ、ベトナム、そういう国々を上回る高い水準の福祉が行われている。そして高い相続税が課せられている。こういう日本の現実は、従来からの伝統的な資本主義の世界における資本家が富を独占して、その他の労働者を搾取する。そういう構図とはだいぶずれていることは事実でありまして、日本における政治が、アメリカと同じと口では言いながらも、実はアメリカ以上に遥かに社会主義的な政策が取られてきているという。これが現実であるわけですね。

 保守政党が率先して社会民主主義的な政策を主導してきた日本の歴史は、私達は、非常に重要な事件であると受け止めなければいけないのですが、そういう中にあって、結局のところ、いわゆる革新勢力と言われる人たちが、そのように支配的な保守的政治家と言われる人たちが社会民主主義的な政策をとっているに対し、そのことの、言ってみればおこぼれに国民が預かるということをただ歓迎するという。もっとやれ、もっとやれって言う方向で、それを煽っていただけであった。もっと言えば、その具体的な政策は歓迎しながらも、政治政策としては、あたかも対立軸があるかのように演出してきた。「嘘」、「欺瞞」、それを繰り返してきたということですね。そして、「平和憲法を守る」というようなスローガンを強く言われてきましたけれども、実は平和憲法を守ってきたのは、保守政党でありまして、革新政党の力で憲法が守られてきたわけではない。ということが、現実として言えるのではないかと思うんです。私はもちろんここで、これからの社会、これからの日本を考えるときに、日本の憲法を、この状況において維持し続けることができるかどうか、これは非常に重要な問題であり、私は、「この世界に稀な憲法の持っている崇高な精神が、アメリカから押し付けられた占領軍の憲法である。だから早く改定すべきである」というような議論にすぐ短絡させて考えるということには反対するものでありますけれども、そのような見方に対しては、やっぱり躊躇して、ためらいを持つというのが正直なところですね。

 けれども一方で、憲法を守り、日米安全保障条約という条件のもとで、国土を提供する代わりにアメリカの核の傘の下に経済的な繁栄という果実だけを享受するという日本の保守政党が取ってきた政策の巧みさというか、ずるさというものを私はあまりにも過小評価していたというふうに感じています。元々そういう生々しい保守・革新の話もありますが、もっと根源的に、ここでは保守・革新、Conservative・Innovation、革新をInnovationと訳すのがいいのかどうかちょっとよくわかりませんが、そういう対立構図で政治を見るときに、私達はどのような立場を基本に踏まえるべきかということ。それは、十分日常的に考えるに値する問題だと思うんです。従来の日本は、自分に都合が良い、自分の利益が増える方向に向けて政治家が動く。このことが良いことだということで、自分の利益団体、自分たちの所属する利益団体、それが圧力団体で、それが推す政治家を当選させる。これが日本の戦後の伝統であったと思います。しかし、これからはそれほど単純ではない世界がやってきている。そのことを意識して、改めて「保守と革新とは一体何か」ということを、問う必要がある。

 私は何よりも第一に「保守」というのはConservatismの訳であるとすれば、それを昔の我が国の有名な人気のある首相が言ったように、守旧派、古いものを守る勢力というふうに悪口を言って、切って捨てたわけでありますが、守旧派勢力という言い方は、保守勢力に対して失礼な言い方だと思うんです。古きを守る。これは伝統を守るということの重要な意味を考えるならば、十分ありうる主張であって、「伝統のしがらみから一切自由になることこそが進歩である」というのは、軽薄な進歩史観だと思うんですね。特に私達は、20世紀はある意味で理想に燃えた世紀であったと思いますが、その理想主義同士の対立が大きな悲惨をもたらすという100年間の経験を通じて、単なる理想主義だけだとその対立を解消することができない。その理想主義を超える人類の英知を築いていく。そのためには、長い長い時間、歴史が必要であるわけですね。その長い時間をかけた私達の苦闘の歴史に対して、敬意を払って、それを重視する。その歴史を重視するっていう立場を考慮するならば、「保守主義」という言葉に対して私は子供の頃大嫌いな言葉でありましたが、改めてその言葉の意味っていうのを考えなければいけないな、と最近なって思うわけです。それはある意味で、古典というものが単に古いものではなく、昔からのものというのが生きているのはそれだけで奇跡的なことなんだから、それを大切にしよう、これが古典を愛する気持ちですね。それに対して「保守主義」というのは、人類の長い歴史の中で培われてきた様々な英知に対して、それを尊敬する、尊重するということ、これをまず第一のたしなみとしようっていう考え方であるとすれば、それは立派な態度と言えないでしょうか。ただ軽薄に新しさを求めて革新を叫ぶというのはいかにも軽薄な若者、私がまさにそう1人であったようなその軽薄な若者の文化かなと。そういうふうに断じても良いくらいであると思うんです。

 もちろん保守と革新の問題は今述べたほど単純ではないわけで、もっともっと考えなければいけない問題がありますけれども、私は今日は日本の保守・革新と言われる勢力がたどってきた不幸な歴史を踏まえ、しかし、アメリカにおける民主党・共和党の対立、深まる断絶、そういう今日的な問題を視野において、アメリカにおいて二大政党が反共産主義という点で強く団結しながら、しかし保守と革新という幅の狭い振れ幅の中で対立しているという有様を考えて、日本の政治状況と大きく異なるこのアメリカの政治状況を考え合わせ、ついでに言葉の意味を考えることを通じて、問題を皆さんにもう一度考えてみましょうよと提起するつもりで、このお話をいたしました。

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