長岡亮介のよもやま話62「専門用語の面白さ」

 専門用語の面白さに、その専門用語でしか表現されない世界があるということを、理解することはとても楽しいことだということをお話したいと思います。皆さんは中学校で幾何を勉強したならば、あるいは高等学校で数学を勉強したならば、「直交」、直角に交わるという言葉をそれ知っていると思うんですね。「直交する」ということを、直角に交わるという意味でしか知らない。これがいわば日常言語の世界に生きている人たちの限界です。大学以上では数学以外の分野、例えば物理学などにおいても、直交という言葉は大変頻繁に使われます。ベクトルという概念も大学以上では、自然科学分野ではなくてはならない非常に重要な概念です。そこで直交という概念をしばしば扱います。

 その「直交」というテクニカルタームで表現されるものは、「図形的に見て、直角に交わっている。」ということではなく、むしろ日常語に最も近い言葉に直すとすれば、「点で関係がない。全く無関係。」というような意味と思っていいでしょう。大学以上の学問分野では高次元空間を考えるということが当たり前になってきます。電気電子通信の世界は、まさに直交する波で作られていると言ってもいいくらい。なんです。だからこそ同じ電波を使いながら、何万人の人も情報通信を独立に互いに干渉することなく行うことができるわけで、携帯電話を使っている人は、まさにお互いの使っている携帯電話の電波が直交しているということ、これを利用しているといってもいいわけですね。つまり無関係と意味なんです。

 よく話がすれ違うということを、「180度違う」というふうに言う人が多いのですけれども、それはおそらくベクトルの、高次元のベクトルの概念をご存知ない方が、平面の幾何学しか知らないという意味で、180度というのは一番正反対という意味で使っているんだと思いますが、180度違うということは正反対ですから、ものすごく関係あるんですね。例えば、私は、正反対の性格を持つ知人とは議論をすることができます。それは議論をしていて、それを反駁するために顔を真っ赤にして興奮して喋ることもあるかもしれませんが、議論が成立するわけです。しかし、いわば直交している人たちとは、議論ができない。その人たちの言っていることが意味がわからない。私の言っていることもおそらくその人たちの耳には届かない。耳に届いたとしても、おそらく心には届かないのだと思います。

 数学や物理学を少しかじって専門用語の世界というのに触れると、日常用語を逸脱した、こういう使い方ができるようになる。これはちょっと言語世界が豊かになるということに、繋がるんじゃないかなと思います。

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