長岡亮介のよもやま話11「石打の刑」

 本日はちょっと言ってはいけないような話題についてお話ししたいと思います。最近でもつまらないニュースが私も携帯電話を使ってる関係で、大量に入ってきます。本当に取るに足らないつまらないニュースと私には思えるのですが、それが大切だと思ってる人もいるのでしょう。私の携帯電話の設定が悪いのかもしれません。全く私にとってどうでもいいニュースがたくさん入ってくるわけです。そういうのをニュースと言っていいかどうかわかりません。

 実際にちょっと興味のありそうなタイトルで中身を覗いてみると、全く中身がないということが少なくありません。本当にこれがジャーナリストと言われる人たちが書いている文章なのかと思うくらい、「て・に・を・は」さえ怪しい文章に出会うことも少なくありません。誰でも記者とかジャーナリストというのと同じ立場に立って情報発信ができる、そういう世の中になったんだなというふうに思いますけれども、その分だけ私達一般の市民はあふれてくるかのように入ってくる情報に対して、それが本当に意味のある情報であるかどうかを判断する能力が、ますます求められるようになってきている、そういうふうに感じます。

 昔のように、この新聞だったならばそんなに間違いはないと思って信じて読むことができた。そういう時代が日本では残念ながら遠くなりつつあるように思います。アメリカはとっくの昔に大新聞の危機が叫ばれましたけれども、報道機関はむしろそのような危機を通して、より真剣に取り組み記事の内容も良くなったように、私が英語ができないせいだけかもしれませんけれど、やはり何かよくなったような感じがいたします。

 ところで、そのような情報の洪水の中で、今日お話しようと思っていることは、いわゆる本当に三流記事というふうに言っていいと思いますが、ハラスメントという言葉でくくられる類のニュースです。いわゆる自分の権力、力を持って、弱い人に対してそれをいじめるということは人間として最も恥ずべきことであり、特に女性に対してその身体的なハラスメントをするということは最も許されないことの一つだと思いますけれども、しかし、何かそういうものに対して周りで騒ぎ立ててこの人がこんなことをやった、というふうに大騒ぎする。なんとなく本質がそらされていて、表面的な情報だけが独り歩きしているような、そういう空疎な印象を私はつい受けてしまうわけです。

 問題の本質に迫ろうとする努力が全くなされないまま、その事件として騒ぎ立てる。そして自分たちはその騒ぎの外にいる。自分たちは全く無責任のその情報発信するだけの人間になっているかのように振舞っている。そのことに私はちょっと残念に思うわけです。いろんな事件が起こったときに、何か人々が正義の味方として自分たちを振舞っている。そして、その情報を発信する人も正義の情報を発信している、そういうふうに振舞っている。これでは大本営発表を信じて愛国婦人の会を作っていた人々と、私達は大差ないのではないかというふうに思います。コロナ危機の折、マスク警察という言葉があったり、田舎の方では東京から帰郷した若い人がコロナウイルスを運んできたということで、その村にその家族が住めなくなってしまった、という痛ましい話を耳にしましたけれども、それは極端にいってしまった場合であるにせよ、何か都会の私達の身の回りでもそういうのと似た、言ってみれば本当に自分たち一人一人が情報に対して向かい合う、あるいは事件に対して向かい合う自分の責任としてそれを考えるということなく、みんなで騒ぎ立てて断罪する、そういう側に立って安心している、という傾向がますます強まっているような気がするのです。

 私もしばしば、そういうことを言ったら「今の世の中アウトだよ」というような表現をよく聞くのですが、その人たちは「今の世の中」という言葉をきちっと定義しようとしているのでしょうか?「アウト」という言葉を定義しているのでしょうか?私達は人に対して、アウトというのを宣言する権利を、いつどのようにして保障されていると思っているのでしょうか?そういうことをたまには考えた方がいいんではないか、と思うことがしばしばあります。

 有名な聖書の中のイエスの言葉に、罪を犯した女に対して石打の刑、これは古い時代にはしばしば多くの文化圏においてなされていた刑罰でありますけれども、石を投げて殺すまで石を投げる、本当に残酷な刑罰だと思います。この刑罰が、今でも日本を除く、日本だけではありませんけれども、世界のいくつかの大きな国で続いているわけでありますが、その刑罰をしているところを通りかかったイエスが、この人に対して自分たちが罪を犯したことのない人たちだけが石を投げなさいと言ったら、誰も石を投げることができなくなった、という話があります。やはりそのような感覚を、私たちは時々思い出すべきではないかと思いました。

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