長岡亮介のよもやま話10「情報を取捨選択するという叡智」

 インターネットが普及して、人類の文化、あるいはビジネス、人によっては生き方にまで大きな変化をもたらしています。インターネットというのはコンピューターとコンピューターが繋がるということを通じて、情報のやり取りが大変に容易になる。このことには正負の側面があるわけで、喜んでばかりもいられないんですけれども、しかし、非常に貴重な情報が容易に手に入るようになったということ自身は、ものすごく画期的なことだというふうに思います。

 いろいろと悪口が叩かれることが多いGoogleとかAmazonとかありますけれども、しかしながら彼らが切り開いた新しい情報の時代の先駆的な意味、それを否定することはできないと思います。それは最初Googleが全人類の知的な遺産として全ての書籍を電子化するというプロジェクトを提唱したときに、多くの国の著作権者の反対にあって、それ自身は成功しなかったわけですけれども、Google社は著作権の切れた古い文献について膨大なデータベースを作り、それを人々に公開するということを、熱心に推進しました。

 そしてGoogleのその精神に倣って、多くの研究機関が自分のところが所蔵している貴重本、それを一番簡便な場合は写真で撮ってスキャナー画像を公開する。もっと手の込んだところでは文字を読んで手で入力してテキスト化して、世界中の人々に公開する。こういうプロジェクトが西欧の大学を中心にずいぶんと進みました。そのおかげで日本のような東洋の島国にいては到底手に入らない、ヨーロッパの貴重な自然科学草創期の重要な文献が簡単に手に入るようになった、ということは私にとっては本当に革命的な出来事でありました。

 学術の世界でそのような革命が進行していることは言うまでもないことなんですが、学術以外の世界でも、実はこのような情報公開がとても重要な役割を果たしている分野がいくつかあります。Amazon社が始めたAmazon Prime Videoというのは、Amazon社自身がこんなに会員が喜ぶとは思ってもいなかった。そのために、会費を安くしすぎたという後悔をしているようですけれども。毎月の定価格の料金によってアクセスすることができないくらい多くの映画、貴重な映像、それに触れる機会ができた。ありがたいことでありますね。

 同じようにYouTube社を買収したGoogleのおかげで、一昔前YouTubeというと低品質の、言ってみれば個人撮影の面白動画というのを見るという程度のものでありましたけれども、最近では立派な劇場作品、オペラ、バレー、オーケストラを含むとても貴重な芸術作品が、簡単にお茶の間で見ることができるようになっています。

 Google社はこのサービスを提供するにあたり、特別の有料会員以外にはコマーシャルを強引に見せるということで、有料会員を募っているようでありますが、Google社のビジネス自身は、コマーシャルというのが一体本質において何なのかと、これは企業のパブリックリレーションというふうに言われたものですが、実は現在のPRはただのCM、商品の一方的な宣伝広告に過ぎないという本質を、より明らかにしてくれたという意味で、Google社がやっていることも大変迷惑なことだと思いますが、一方で20世紀の私達の自由主義とか資本主義とか言われてるものが、広告宣伝主義にものすごく毒されているという現実を、みんなに明らかにしたことはとても良いことではないかと思います。

 実際私はGoogle社の公開するビデオや音楽を聞くのに、広告をカットするアプリケーション、これを売ってる企業がありまして、非常によくできていて、それを利用することによってうるさい広告から自由になることができています。このような方法ではGoogle社の利益が上がらないじゃないかと心配する人もいるかもしれません。いろんな方法でGoogle社のCMをカットするということができるのですけれど、先ほども言ったようにCMをつけるということが、実はGoogle社の大切なビジネスになっているという事柄の本質、それを人々に明らかにしたという意味では、これもとても大切な意味を持っている重要な仕事だったのではないかと思います。

 私達がもし十分警戒しなければ、このような言ったもの勝ちの世界につい取り込まれてしまうということ。私達が情報を取捨選択するという叡智を日々磨かなければ、私達はとんでもない嘘宣伝の世界に巻き込まれてしまうという恐怖を、常に感じなければいけないということを教えてくれてると思えば、大変にありがたいレッスンではないかと思う次第です。ちょっと皆さんの感想と違う感想を私は持っているかもしれませんが、皆さんの考えのちょっと軌道修正、あるいはその皆さんの考えをより豊かな普遍的なものにするために、私のちょっと偏った考え方が少しでも役に立つならば幸いこの上ありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました